名古屋の病院で起きた医療問題について
皆さんニュースを見たでしょうか?
名古屋にある総合病院で、研修医が誤診をして、16歳の男子高校生が亡くなったという事例がありました。
16歳という若い男性が助けられたかもしれないのに亡くなってしまったという痛ましいニュースです。
私はこのニュースを見たとき、研修医が誤診したせいで亡くなったという印象を受けました。しかし、実際にこの病院が発表した事例内容の報告書を読んで、個人的に思うことがあったので、フェイスブックに投稿したいと思います。
まず、今回の事例で亡くなった原因となった病気のSMA症候群ですが、皆さん聞いたことありますか?たぶん、一般の方はほとんどの方が聞いたことないかと思います。
私は消化器外科が専門であり、かつ救急にも多くかかわってきたため、もちろん知っている病気ではありますが、実際に10年以上の経験で数えるほどの患者さんしか救急外来では診たことありません。つまり、そこまでメジャーな病気ではないです。
ましてや、専門の医師でなければ、一度も診断したことなくてもおかしくないです。さらに、この病気の難しいところは、血液検査で診断することができなく、画像での診断が重要となりますが、腹痛の腹部CTの診断はとても難しいところがあります。
ですので、今回の事例において、研修医が診断すること自体は難しかったのではないかと考えます。(もちろん優秀な研修医もいますので、一概には言えないですが)
また今回の事例では、救急外来に2回受診(時間外?)したが、研修医が胃腸炎という診断で、帰宅させています。その翌日に近医を受診、緊急処置が必要と判断され、総合病院へ紹介・入院となっています。
入院後の治療処置に関しては、過活動性せん妄(暴れてしまうような異常行動など)があり、必要だと考える治療を行いにくい状態であったようです。なので、入院後の対応として、この報告書から想像する限りは難しい部分もあったように感じます。
じゃあ、今回の事例は防げなかったのかということになってしまいますが、そんなことはないと思います。私の経験から、二つのポイントを意識していれば、少なくとも一歩早く対応ができたのではないかと考えています。
一つ目は皆さんもわかっていると思いますが、研修医が上級医への報告することの義務化です。
一般の方はなぜこんなことができないのかと感じるかと思いますが、医師の当直における問題点があります。
働き方改革で色々と体制が変わってきていますし、病院によってもルールが違いますので、その点はご了承ください。
少なくても私が経験してきた病院での話をします。
医師の当直は今まで、夜勤という扱いじゃなく、宿直(待機)というような扱いでした。つまり、勤務でないため、原則は休んでいる時間とされています。しかし、実際は救急外来に来る患者さんや病棟の患者さんの対応に追われています。
つまり、日中勤務し、そのまま当直(休んでいるはず)し、さらに日中勤務ということが当たり前でした。(それが月に複数回)
若いうちはこれでも大丈夫かもしれませんが、年齢を重ねると厳しくなってきます(実際に私がそうです。笑)
これを踏まえてですが、総合病院の当直体制としては多くが研修医を下につけて、上級医が最終判断をするような形をとっています。そうすると、研修医がまず患者さんを診察し、その上で上級医に相談する流れができます。
さて、皆さん考えてみてください。
明日も朝から仕事がある中、夜中に1時間おきに起こされて、慣れていない研修医の回りくどい説明に毎回優しく対応できますか?
出来る方もいると思いますが、全員ではないかなと。
その結果、研修医も怒られると思うと出来るだけ連絡したくなくなります。そして、患者さんに大きな問題がなさそうと自分で判断した場合には連絡しなくなります。しかも、上級医もその方が楽なので良しとしてしまいます。そして、ほとんどの場合は研修医の判断が正しく、患者さんは軽症であり問題になりません。
これが悪き習慣となってしまっている原因だと考えます。
根本的には医師の働き方自体を変える必要があるかと思います。
ただ、早急に対処するためには、まずは病院としてのルール(報告の義務化とチェック体制)変更と上級医の意識改革が必要だと思います。
幸い私が研修した病院では、かならず上級医に報告しなければ、逆に怒られたので、どんな場合も上級医に報告することが習慣となっていました。報告することで怒られるようなことはほぼなかったように覚えています。
研修医が相談しやすい環境を病院全体として作り出せれば、今回の1つ目のポイントは解決すると思います。
もう一つのポイントに関しては、私自身が先輩医師から受けたアドバイスなのですが、同日に再受診する患者さんには注意しなさいというものです。
時間外の救急外来には軽症から重症の患者さんが多く運ばれてきます。できる検査も限られるので、すべての患者さんを完璧に診断するのは難しいです。
その中で一旦は軽症だと判断して、帰宅させたとしても、当日に再受診するような場合には、見逃されている大きな病気が隠れているかもしれないので、いつも以上により慎重に診療するべきだと教わりました。
私自身も今までの何度もこのアドバイスで救われてきました。
今回の事例においては、再受診されていることからも、たとえ血液検査などに大きな問題がなかったとしても、より慎重に判断する必要があったのではないかと思います。
このアドバイスを受けていれば、研修医もより慎重に診療ができたのではないかと思います。ぜひとも、これを読んでいる研修医の方がいたら、肝に銘じてほしいです。
個人的にはこの二つのポイントが改善されることがあれば、今回の事例において、このような結果になることを少しは防げたのではないかと考えています。
このような悲しい事例が今後起きないよう、私自身も患者さんの声によりしっかりと耳を傾け、診療をしなければと改めて身が引き締まりました。
